囲碁の医学的効用(4)
囲碁の医学的効用(4)
東京都立神経病院 飯塚あい
囲碁の魅力、それはゲームそのものの面白さだけに留まるものではありません。このコーナーでは囲碁の魅力を通じて社会に与える影響、なかでも医療にどう役立つかということについて、私の考えをお伝えしていこうと思います。
これまでの記事で、囲碁が世代や肩書きを超えて、周囲とのコミュニケーションを図る最高のツールであることをお伝えしました。今回は、私が最も「囲碁療法」の効果があると考えている疾患、認知症についてお話ししたいと思います。
認知症とは、色々な原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったために様々な障害が起こり、日常生活や社会生活に支障が生じる状態を指します。症状としては、物忘れ、理解判断力の低下、注意集中力の低下、性格の変化、道に迷ったり日付がわからなくなることなどがあります。
認知症というのは、ひとつの疾患のことを表しているものではなく、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レピー小体型認知症、前頭側頭型認知症などいくつかの分類に分けられ、原因もそれぞれ異なります。
特に患者数が多く問題とされているのが、アルツハイマー型認知症です。初期は軽度の物忘れから始まり、進行すると人格の変化や異常行動が目立つようになり、正常なコミュニケーションをとることができなくなります。治療法としては、症状を和らげたり、進行を遅らせる薬がいくつかありますが、いずれも効果が目覚ましくないのが現状です。そこで、今日では世界中の医師、研究者から認知症の予防に焦点が当てられています。
認知症の予防には、脳の前方にある前頭葉の一部である前頭前野を活性化することが有効であるという報告があります。前頭前野とは、人間が人間らしくあるための最も重要な機能を司どる部分であり、思考力、コミュニケーション力、注意・集中力、意思決定をする能力などの役割があります。認知症患者さんは、この前頭前野の機能が低下しているのです。そこで、前頭前野を活性化することが、認知症の予防に効果があるのではないかと言われています。
現在、前頭前野を活性化するツールとして、簡単な読み書き、計算、パズルゲーム、料理、旅行、音楽、園芸など様々な取り組みがされています。その中でも、カナダの研究者たちによって、パズルゲームが認知症の予防に有効であるという結果が発表されました。そこで考えられるのが「囲碁療法」の可能性です。囲碁はパズルゲームに似ており、加えてさらに高度な能力が必要なゲームです。そのことから、認知症の予防に有効なのではないか、と私は強く思います。
とある日本の調査では、認知症の予防のために活用したいツールについて、人気が高かったのは麻雀や囲碁などの卓上ゲームであり、特に男性では六十一%と高い結果となりました。効果を得られる可能性が高いだけでなく、プログラムに取り組む意欲も得られるのではないでしょうか。
次回は、なぜ他のゲームではなく囲碁なのか、囲碁ならではの特徴と、脳の機能に対する影響についてお伝えしていきたいと思います。