囲碁の医学的効用(2)
囲碁の医学的効用(2)
東京都立神経病院 飯塚あい
前回、囲碁が認知症予防や高齢者の健康増進に役立つという、『囲碁療法』の可能性についてお話ししました。今回、その取り組みの一環として企画したイベントについてご報告させていただきます。
二〇一四年三月十五日、東京都板橋区にある東京都健康長寿医療センターという病院で、初めての囲碁と医療のコラボレーションイベントである『健康長寿囲碁まつり」を開催しました。このイベントは、病院の患者さんとそのご家族、地域住民、病院スタッフを対象に、病気を抱えながら生きる人、今は元気でも将来に不安のある人が、新しい生きがいを持ち、自分らしい人生を歩むためのきっかけを作りたいという思いから生まれました。
内谷は元アマチュア本因坊である村上深さん、元院生の千葉聡子さんによる入門教室、大橋拓文六段による指導碁、囲碁と医療に関するポスター展示、故木谷実九段の息子である木谷正道さんによる音楽ライブなとで、初めての試みにも関わらず来場者一〇五名、スタッフを合わせ一二〇名の方にご参加いただき、大変活気溢れるイベントとなりました。
参加者の方からたくさんの素晴らしい感想をいただきました。現在入院中の患者さんが会場に足を運んで下さり、「毎日病気で苦しんでいましたが、久しぶりに碁を打って楽しい時間を過ごすことができました」という感想もいただきました。また、「物忘れに不安がある、けれどどうすれば良いかわからない」という高齢の方が、囲碁という新しいゲームを始めたことで「まだ新しいことを覚えて普段使わないような脳を使うことができるのだと思って安心しました」と言ってくださり、とて印象的でした。九十一歳の女性は「もう打つことはないと思っていましたが、久しぶりに打ってとても楽しくて、また生きがいができました」と、とても笑顔でした。参加者の方々が夢中で囲碁を打つ姿を見て、馴染みのある病院で行った甲斐があったと実感させられました。
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話は変わりますが、私が現在勤めている病院でこんなエピソードがありました。全身の筋力が進行性に低下する難治性の病気であり、根本的な治療法がなく、もう治らないという告知を受け、ひどく落ちこんでいる患者さんがいました。話を聞くと、囲碁五段であり、発症前に碁会所に通っていたとのことです。ある日、病室で対局をすることとなりました。腕の筋力が低下し、食事を摂るにも精一杯であるにも関わらず、十九路盤一局を一生懸命腕を伸ばして打ちきりました。終局時、彼は「夢中になって疲れるのを忘れてしまいました。楽しかったです」その顔は、笑顔でした。
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健康長寿囲碁まつりでも、病棟で対局した時も、患者さんはみな笑顔でした。このように、囲碁には人を夢中にさせ、笑顔を生むパワーがあると考えます。囲碁は世代を問わず最高の生きがいとなり、身心を健康にするのに最適なゲームであると改めて実感させられました。笑顔になるとは、人生を楽しむことです。囲碁で人々の笑顔が増えることを願って、今後も活動を続けていきたいと思います。次回、『第二回健康長寿囲碁まつり』は本年一〇月二五日に行います。皆様にも是非、足を運んでいただけたら幸いです。
(「日本の碁」第2号掲載/平成26年7月14日発行)